酒田市土門拳文化賞 第31回の結果報告

「酒田市土門拳文化賞」は、本市出身の世界的な写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化、写真芸術の振興を目的に平成6年6月に創設された賞です。
31回目を迎えた今回は、全国34都道府県の127人から135テーマの作品が寄せられました。
令和7年6月6日(金)、酒田市において選考委員会を開催し、次のとおり受賞者が決定したので、お知らせいたします。

1.選考委員

江成 常夫 氏   写真家・九州産業大学名誉教授・(公財)さかた文化財団名誉顧問
大西 みつぐ 氏  写真家

2.選考結果

酒田市土門拳文化賞(1点)

山田 青雨 氏(沖縄県宜野湾市)
「約束のない場所 A Place Without Promise」(カラー30枚組)

酒田市土門拳文化賞奨励賞(3点|受付番号順)

森本 巧 氏(大阪府枚方市)
「樹木写鑑<表現者たち>」(モノクロ30枚組)
中沢 賢治 氏(神奈川県鎌倉市)
「PAKISTAN -か・し・ら・も・じの国」(カラー30枚組)
林 歩 氏(千葉県大網白里市)
「ここに還る」(モノクロ30枚組)

森本巧氏の作品より

中沢賢治氏の作品より

林歩氏の作品より


3.今後のスケジュール

授賞式   令和7年 9月27日(土)午後2時〜  会場:土門拳写真美術館
受賞作品展 令和7年 9月26日(金) ~ 10月26日(日)   土門拳写真美術館
      令和7年11月 4日(火) ~ 11月17日(月)   ニコンプラザ東京(日曜休館)
      令和7年11月27日(木)~ 12月10日(水)     ニコンプラザ大阪(日曜休館)

4.選考委員講評

◎ 総評江成 常夫

 歴史的不条理を背景としたロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナの紛争は「⽬には⽬―」の、明⽇が⾒えない殺戮が今なお続いている。そうした中、我が国は昭和100年、敗戦から80年の節⽬を迎え、昭和が犯した戦争の過ちを検証、明⽇への和平を思索している。

 ⼟⾨拳が提唱した「写真リアリズム」、⾔わば記録性を旨とする写真は、⼈間社会が普遍とする和平探索への⼒と役割を持っている。

 こうした理念の基、「⼟⾨拳⽂化賞」は今年31回を迎えた。この「賞」が單写真に基づく他のコンテストと異なり、難関とするのは、上限を30点とする組写真によるもので、テーマの設定はじめ、撮影から構成まで⾼度な技術が求められる。こうした“難関コンテスト”御墨付きの今回の公募にも、ほぼ例年に並ぶ、全国34都道府県から127⼈、135テーマ作が寄せられた。

 応募作を⿃瞰図的に⼨⾔すれば、物質⽂明のツケとしての環境問題、⾼齢化社会にともなう⽣と死の喜びと悲しみ、戦争の影を落とす歪な町、国外では窮乏に喘ぐ⼈の群れ。卓越した表現技術で切り取った作が⽬を引いた。

 このように「ハイアマチュアのプロへの登⻯⾨」を謳った「⼟⾨拳⽂化賞」は、年ごと成果をあげ、⼀地域に⽌まらず、写真⽂化の世界に広く通じるに⾄っている。

 カオスの社会を“鏡”として明⽇への和平に機能する「⼟⾨拳⽂化賞」のさらなる発展を念じたい。

◎ 土門拳文化賞受賞作品について江成 常夫
「約束のない場所 A Place Without Promise」 山田 青雨 氏作品

 今回の「⼟⾨拳⽂化賞」作に接し、1972年、沖縄本⼟復帰に際し、初めてその地を踏んだ時のことを思い起こした。

 那覇市の繁華街・国際通りでは年⽼いたお婆ちゃんがドル札を⽚⼿に商いをし、⽶軍嘉⼿納基地ではフェンスにへばりついた畑で農夫が鎌を振っていた。そしてまた基地に隣接した⽶兵相⼿の歓楽街、沖縄コザ市のBC 通りでは、若い⽶兵と⽇本⼈がディープキスを交わしていた。こうした光景は「基地の中の沖縄」をまざまざと印象づけた。

 そして沖縄本⼟復帰から半世紀余り、今ある沖縄の⽇常を切り取った受賞作『約束がない場所』には、この⻑い歳⽉、時が⽌まったままの沖縄が記されている。この内外が混沌の時代にあって、「『戦争のない時代』を⽣きているはずの私たちが今なお『戦争の延⻑線上』にいる」。今ある本⼟の⽇本⼈にとって、この写真作に付された⾔葉の意味は深く極めて重いと⾔える。

◎ 土門拳文化賞奨励賞受賞作品について大西 みつぐ
「樹木写鑑<表現者たち>」 森本 巧 氏作品
 コレクションとしての、あるいは図鑑としての写真のありようは昔から評価されてきた。それはとりもなおさず「記録」という土台が写真にあるからだ。作者の「行為」もまたそうした地道な努力により結晶されるべきものなのだが、「樹木から語りかけてくるもの」に対し懸命に「目を傾けて」いる点が好ましい。それらは造形感覚だけでは収まらない「表象」というところまでに行き着く崇高な作業かもしれない。黙々と対話して撮ること。かつて土門先生が試みた撮影のありようは今も続く。
「PAKISTAN -か・し・ら・も・じの国」 中沢 賢治 氏作品
 英国からの独立運動の時代に5 つの地方の頭文字を国名にしたパキスタン。現在インドとの停戦合意はしたものの対立は続いている(2025 年6 月現在)。かつて開発支援の仕事で中央アジアに駐在した経験を生かし、ここ数年通い続けたパキスタンの町や村が生き生きと活写されている。国と人々に積まれた問題は数あれど、自由闊達に遊ぶ子供たち、働く人々のまっすぐな視線などに希望がしっかりうかがえる。巧みなカメラワークと変化ある組写真としての構成力が光っている。
「ここに還る」 林 歩 氏作品

 作者は千葉県の農村地区に嫁いだ。そして「土に生まれ朽ちてまた還る」という環をカメラを持つことで自覚的、あるいは内省的に想うことから表現活動を広げていく。「先祖」という目に見えない制約や日々の葛藤、家と土が織りなす物語は、作者ならではの眼差しを起点としてモノクロ独特のトーンと質感により美しく、また儚げに再現されている。山や森や林が聖なる空間として作者と共鳴し、言葉を過剰に用いることも拒絶させ、「写真」ならではの思索世界に導いている

5.応募状況

年度 応募者数(男・女・不明) テーマ数(モノクロ・カラー・混合) 作品枚数 都道府県
R7 31 127(91・34・2) 135(62・65・8) 3,677 34
R6 30 108(83・22・3) 117(54・63・0) 3,137 36
R5 29 102(77・25・0) 108(54・54・0) 2,924 39
R4 28 106(87・16・3) 116(52・62・2) 3,052 35
R3 27 124(96・28・0) 128(51・72・5) 3,391 35
R2 26 138(106・29・3) 145(54・90・1) 3,861 37
R元 25 137(104・33) 143(61・77・5) 3,885 35
H29 24 131(100・31) 146(80・60・6) 3,923 36
H28 23 131(111・20) 143(56・75・12) 3,879 36
H27 22 135(110・25) 143(52・83・8) 3,892 35
H26 21 117(98・19) 130(64・62・4) 3,446 33
H25 20 128(105・23) 140(50・78・12) 3,632 41
H24 19 147(121・26) 155(63・79・13) 3,981 36
H23 18 156(141・15) 161(53・102・6) 4,179 41
H22 17 144(127・17) 151(68・79・4) 3,867 37
H21 16 136(107・29) 154(53・93・8) 2,979 35
H20 15 127(112・15) 134(43・89・2) 2,902 36
H19 14 147(121・26) 155(56・94・5) 3,442 40
H18 13 101(81・20) 116(57・53・6) 2,861 30
H17 12 111(87・24) 117(66・48・3) 2,999 32
H16 11 124(95・29) 124(51・69・4) 2,848 36
H15 10 110(92・18) 120(56・61・3) 2,849 29
H14 9 103(84・19) 109(49・54・6) 2,808 30
H13 8 136(114・22) 142(68・68・6) 3,311 35
H12 7 115(97・18) 124(75・47・2) 3,006 38
H11 6 119(96・23) 127(67・58・2) 2,739 34
H10 5 139(108・31) 150(74・71・5) 3,134 36
H09 4 138(110・28) 151(82・67・2) 3,144 37
H08 3 151(124・27) 170(80・86・4) 2,835 34
H07 2 104( 93・11) 114(50・59・5) 1,938 34
H06 1 108(103・ 5) 130(62・66・2) 2,453 37

お問い合わせ先

〒998-0055 山形県酒田市飯森山2−13(飯森山公園内)
土門拳写真美術館  文化賞事務局
電話:0234-31-0028

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