酒田市土門拳文化賞 第29回の結果報告

「酒田市土門拳文化賞」は、本市出身の世界的な写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化、写真芸術の振興を目的に平成6年6月に創設された賞です。
29回目を迎えた今回は、全国39都道府県の102人から108テーマの作品が寄せられました。
令和5年6月9日(金)、酒田市において選考委員会を開催し、次のとおり受賞者が決定したので、お知らせいたします。

1.選考委員

江成 常夫 氏   写真家・九州産業大学名誉教授・(公財)さかた文化財団名誉顧問
大西 みつぐ 氏  写真家
藤森 武 氏    写真家・(公財)さかた文化財団学芸担当理事

2.選考結果

酒田市土門拳文化賞(1点)

川眞田 慶治 氏(徳島県吉野川市)
「被爆ヒロシマの叫び!」(カラー30枚組)

酒田市土門拳文化賞奨励賞(3点|受付番号順)

若松 誠 氏(東京都大田区)
「Esperanza(希望)-陽はまたのぼる」(モノクロ30枚組)
福岡 育代 氏(東京都北区)
「母へ捧ぐ -中野・時景-」(モノクロ28枚組)
卯月 梨沙 氏(東京都)
「幽明」(モノクロ30枚組)

若松誠氏の作品より

福岡育代氏の作品より

卯月梨沙氏の作品より


3.今後のスケジュール

授賞式   令和5年10月1日(日)午前10時〜  会場:土門拳記念館
受賞作品展 令和5年9月16日(土)~ 10月23日(月)予定    土門拳記念館
      令和5年11月7日(火)~ 11月20日(月)予定      ニコンプラザ東京 THE GALLERY
      令和5年11月30日(木)~ 12月13日(水)予定   ニコンプラザ大阪 THE GALLERY

4.選考委員講評

◎ 総評江成 常夫
 写真には社会と時代に正面から向き合い、戻ることのない時間をリアルに読み取り、記憶に留める「世界の共通語」としての力と役割があります。この理念を普遍的価値とした土門拳文化賞は今年29回目を迎えました。今回の応募数は39都道府県から102人、108テーマの作品が寄せられ、本賞の写真界のステータスがすっかり定着したことを示しています。写真に限らず表現のモチベーションやテーマは、社会と時代が鏡になっていることは言うまでもありません。 
 出口が見えないロシアのウクライナ侵攻、台湾を巡る米中間の確執――止まることのない混沌の中、今回の応募作には核廃絶をはじめ、国交を疎外され、最貧国の状況にあっても希望を謳い、母親への哀惜の情を世の移ろいに重ね、あるいはまた不条理がまかり通る現世にあっても、写真に自己を託したいとする秀作などが目を引きました。 
 応募作と向き合う側にとって、込められたメッセージを正確に読み解くには、自ずと襟を正すことになります。そうした中、今回の収穫と喜びは世界がどんな状況であれ、応募者それぞれが明日への希望を写真に託していることでした。 
 本賞は創設以来「ハイアマチュアのプロへの登竜門」を標榜してきました。選考の終盤に残る作品にはテーマ性や完成度ともに、プロを凌ぐ作品も少なくありません。プロの栄冠を勝ち取った入賞された皆さんのこれからの飛翔を期待してやみません。
◎ 土門拳文化賞受賞作品について藤森 武
「被爆ヒロシマの叫び!」 川眞田 慶治 氏作品
 土門拳の代表作「ヒロシマ」の冒頭文に「実は初めから何も知ってはいなかったのだ」と痛感して、その後足繁く広島の地に出かけては、被爆者の現実を写真に記録していったのだ。一発の原爆が残した13年後の爪跡の記録であった。「何度、ぼくは目頭が熱くなりながらシャッターを切ったことか」と書き添えている。
  川眞田さんは10歳の時に広島への原爆投下を徳島のラジオ放送で知ったという。今日まで11年間連続で広島の平和祭に参加して、今を生きる人々の「叫び」「祈り」をテーマに撮影し続けている。どの写真からも平和を願う「祈り」からの「叫び」が伝わってくる。正に土門拳のリアリズム写真そのもので文化賞に相応しい。 
 核拡散の脅威が続く今こそ、ヒロシマ・ナガサキの真実の姿を世界中の人々は見つめ直すべきである。
◎ 土門拳文化賞奨励賞受賞作品について大西 みつぐ
「Esperanza(希望)-陽はまたのぼる」 若松 誠 氏作品
 2015年にキューバとアメリカの国交は回復したものの、トランプ政権後再びアメリカの経済制裁、さらにコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻、気候変動による自然災害など、困難が続く国にあって、作者が撮影を通して見出した「希望」は、写真というメディアに本来備わった「伝えたい」という力がなしえた表現だ。キューバへは近年日本から撮影に行くカメラマンも多い。エキゾチズムに流れがちな情景描写を乗り越えるべく、人々を正面から力強くとらえ、また街の表情をモノクロームの豊かなトーンの中に描いた秀作である。
「母へ捧ぐ-中野・時景-」 福岡 育代 氏作品
 私たちは今は亡き父母を想う時、「自分らしさを貫いた」と強く誇りに思うことがある。そこに必ずといっていいほど戦後という時代の記憶があり、かろうじてそれを教えてもらったことを感謝せずにはいられなくなる。家族は社会を構成する要素のひとつであり、営みは人間の生きる力とともにある。福岡さんのお母さんの写真を拝見すると、こちらも頑張ろうという気持ちが次から次へ波のように押し寄せてくる。「中野四十五番街の母」の生き様は個人の経験から人間の普遍的な記憶へと向かう。神々しいまでに作品が光っている。
「幽明」 卯月 梨沙 氏作品
 私たちはシャッターを押すことで、被写体がどのような状態であったのか、どうだったのかを確かめるだけでなく、そこに、自分も存在したという事実を見出すことがある。いわば合わせ鏡としての働きがカメラあるいは凝視するファインダー内に備わっていることになる。そこには葛藤もあれば真実を見極めたいという意思も重なる。日常の深淵を覗き込むかのごとく作者の彷徨はとどまることなく繰り返されている。自身と世界を結ぶ糸を手繰り寄せる思い切りのいい閃光のようなショットが魅力的だ。今後の活躍が期待される。

5.応募状況

年度 応募者数(男・女・不明) テーマ数(モノクロ・カラー・混合) 作品枚数 都道府県
R5 29 102(77・25・0) 108(54・54・0) 2,924 39
R4 28 106(87・16・3) 116(52・62・2) 3,052 35
R3 27 124(96・28・0) 128(51・72・5) 3,391 35
R2 26 138(106・29・3) 145(54・90・1) 3,861 37
R元 25 137(104・33) 143(61・77・5) 3,885 35
H29 24 131(100・31) 146(80・60・6) 3,923 36
H28 23 131(111・20) 143(56・75・12) 3,879 36
H27 22 135(110・25) 143(52・83・8) 3,892 35
H26 21 117(98・19) 130(64・62・4) 3,446 33
H25 20 128(105・23) 140(50・78・12) 3,632 41
H24 19 147(121・26) 155(63・79・13) 3,981 36
H23 18 156(141・15) 161(53・102・6) 4,179 41
H22 17 144(127・17) 151(68・79・4) 3,867 37
H21 16 136(107・29) 154(53・93・8) 2,979 35
H20 15 127(112・15) 134(43・89・2) 2,902 36
H19 14 147(121・26) 155(56・94・5) 3,442 40
H18 13 101(81・20) 116(57・53・6) 2,861 30
H17 12 111(87・24) 117(66・48・3) 2,999 32
H16 11 124(95・29) 124(51・69・4) 2,848 36
H15 10 110(92・18) 120(56・61・3) 2,849 29
H14 9 103(84・19) 109(49・54・6) 2,808 30
H13 8 136(114・22) 142(68・68・6) 3,311 35
H12 7 115(97・18) 124(75・47・2) 3,006 38
H11 6 119(96・23) 127(67・58・2) 2,739 34
H10 5 139(108・31) 150(74・71・5) 3,134 36
H09 4 138(110・28) 151(82・67・2) 3,144 37
H08 3 151(124・27) 170(80・86・4) 2,835 34
H07 2 104( 93・11) 114(50・59・5) 1,938 34
H06 1 108(103・ 5) 130(62・66・2) 2,453 37

お問い合わせ先

〒998-0055 山形県酒田市飯森山2−13(飯森山公園内)
土門拳記念館  文化賞事務局
電話:0234-31-0028

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