酒田市土門拳文化賞 第28回の結果報告

「酒田市土門拳文化賞」は、本市出身の世界的な写真家・土門拳の芸術文化への功績を記念し、写真文化、写真芸術の振興を目的に平成6年6月に創設された賞です。
28回目を迎えた今回は、全国35都道府県の106人から116テーマの作品が寄せられました。
令和4年6月3日(金)、酒田市において選考委員会を開催し、次のとおり受賞者が決定したので、お知らせいたします。

1.選考委員

江成 常夫 氏   写真家・九州産業大学名誉教授
大西 みつぐ 氏  写真家
藤森 武 氏    写真家・(公財)さかた文化財団学芸担当理事

2.選考結果

酒田市土門拳文化賞(1点)

大角勝氏(静岡県静岡市)
「立ち止まる情景」(モノクロ30枚組)

酒田市土門拳文化賞奨励賞(3点|受付番号順)

若林茂氏(静岡県三島市)
「母 卒寿」(カラー30枚組)
井上宏氏(群馬県安中市)
「一瞬」(モノクロ30枚組)
宮崎豊氏(大阪府大阪市)
「なにわ新世界ストーリー・コロナ禍の時代」(モノクロ30枚組)

若林茂氏の作品より

井上宏氏の作品より

宮崎豊氏の作品より


3.今後のスケジュール

授賞式   令和4年9月4日(日)午前10時〜  会場:土門拳記念館
受賞作品展 令和4年9月3日(土)~ 10月16日(日)   土門拳記念館
      令和4年11月15日(火)~ 11月28日(月)   ニコンプラザ東京
      令和4年12月8日(木)~ 12月21日(水)   ニコンプラザ大阪

4.選考委員講評

◎ 総評江成 常夫
 古来、戦争が物質文明を進化させた、という説があります。核兵器がそれを如実に語っています。その愚行の罪を人間が犯したからには、人間が持つ英知、換言すれば精神文化によって正すしかありません。
 土門拳文化賞は表題のように、写真表現をもって豊かな心を培う事業にほかなりません。そしてその理念は土門拳が提唱した「写真リアリズム」、つまり写真が普遍的価値とする記録性を基にした、新たな地平の開拓です。
 今年、第28回の応募は昨年に続くコロナ禍の中、ほぼ例年並みの全国35都道府県から、106人、116テーマが寄せられました。応募作は総じて、テーマ性や表現力が年々高まり、この賞が全国にしっかり根付いたことを示しています。
 作品内容は地方に残る祭りや伝統芸能、山村で一人暮らす高齢者の日常など。そのうちでもロシア軍のウクライナへの侵攻に関わる核戦争への不安、絶えることのない社会的悪事や、紛争がもたらすカオスの時代を、隠喩的に視覚化した重厚作が目を引きました。
 目に見える物質文明と相反し、目に見えない精神文化としての心の風景を育むには、継続の力が不可欠です。
◎ 土門拳文化賞受賞作品について藤森 武
「立ち止まる情景」 大角 勝 氏作品
 土門拳文化賞の選考委員は、師・土門拳のリアリズム写真と、被写体を凝視して写す記録性を念頭に入れて審査している。3年に及ぶコロナ禍で遠出撮影もままならず、県内を舞台に写し歩き「街に生きる」情景にレンズを向け、冷静な空気を吸うことが出来ている。作者は確固たる写真美学が確立されている。一枚、一枚の写真に少しのブレもない。一度だけで写せる写真ではない、何度も同じ場所に行って写した写真である、
 リアリズム写真を気負いもなく、自然体でサラッと写している。コロナ禍を逆手に取った見事な写真群である。
 2枚組×15組の写真構成は写真の表現方法として新鮮味を増している。「立ち止まることなく」執念でもぎ取った文化賞である。
◎ 土門拳文化賞奨励賞受賞作品について大西 みつぐ
「母 卒寿」 若林 茂 氏作品
 応募作品の中にはあまり工夫もないまま、むしろ持て余し気味にダラダラと30枚になっているものは実のところ昔も今もある程度並べられる。その中で若林さんの作品は30枚の「組写真」を真っ向から丁寧に取り組んだ跡がしっかり見て取れる。農作業を中心に四季を追い、ラストからまた一枚目へのループが素晴らしい。逞しい労働の節々に母への感謝と父を偲ぶ心が綺麗に寄り添い、私たち人間に本来備わっているはずの愛しさの情を丁寧に映像として描いている。写真の至福とはこんな清々しさを指しているのだろう。
「一瞬」 井上 宏 氏作品
 動物園で動物たちの一瞬を撮った写真に未来への希望を見いだせるか。難しそうなミッションだが、これらの作品に点在する「表象」を一つずつ解き明かしていくと、動物たちは世界環境の激変に率先し反応していることが読み取れる。そこに人間社会の現在の相剋や葛藤や不安や愛情が見え隠れしていそうだ。井上さんがもしそのことに予め気づいていたとすれば、長年の動物園通いは一つの修行として、ここに来て大きな徳を積むことになった。
「なにわ新世界ストーリー・コロナ禍の時代」 宮崎 豊 氏作品
 言葉としての「人情」はいかようにも簡単に口から出せそうだが、映像として捉える場合は紋切り型なもので終わらせられない。とことんこだわりたくなる。大阪新世界も多くの写真家がこれまで関わってきた。ベテラン写真家である宮崎さんはそうした写真史も当然知った上で、改めてこのコロナ禍の時代にここに共にいる人間としてカメラを向けざるを得なかった。地元のみなさんののっぴきならない人生哀歌、濃厚にして爽快な人間模様、そんな掛け替えのない浪花の人情、そして明日への希望が見事に写っている。

5.応募状況

年度 応募者数(男・女・不明) テーマ数(モノクロ・カラー・混合) 作品枚数 都道府県
R4 28 106(87・16・3) 116(52・62・2) 3,052 35
R3 27 124(96・28・0) 128(51・72・5) 3,391 35
R2 26 138(106・29・3) 145(54・90・1) 3,861 37
R元 25 137(104・33) 143(61・77・5) 3,885 35
H29 24 131(100・31) 146(80・60・6) 3,923 36
H28 23 131(111・20) 143(56・75・12) 3,879 36
H27 22 135(110・25) 143(52・83・8) 3,892 35
H26 21 117(98・19) 130(64・62・4) 3,446 33
H25 20 128(105・23) 140(50・78・12) 3,632 41
H24 19 147(121・26) 155(63・79・13) 3,981 36
H23 18 156(141・15) 161(53・102・4) 4,179 41
H22 17 144(127・17) 151(68・79・4) 3,867 37
H21 16 136(107・29) 154(53・93・8) 2,979 35
H20 15 127(112・15) 134(43・89・2) 2,902 36
H19 14 147(121・26) 155(56・94・5) 3,442 40
H18 13 101(81・20) 116(57・53・6) 2,861 30
H17 12 111(87・24) 117(66・48・3) 2,999 32
H16 11 124(95・29) 124(51・69・4) 2,848 36
H15 10 110(92・18) 120(56・61・3) 2,849 29
H14 9 103(84・19) 109(49・54・6) 2,808 30
H13 8 136(114・22) 142(68・68・6) 3,311 35
H12 7 115(97・18) 124(75・47・2) 3,006 38
H11 6 119(96・23) 127(67・58・2) 2,739 34
H10 5 139(108・31) 150(74・71・5) 3,134 36
H09 4 138(110・28) 151(82・67・2) 3,144 37
H08 3 151(124・27) 170(80・86・4) 2,835 34
H07 2 104( 93・11) 114(50・59・5) 1,938 34
H06 1 108(103・ 5) 130(62・66・2) 2,453 37

お問い合わせ・お申し込み先

〒998-0055 山形県酒田市飯森山2−13(飯森山公園内)
土門拳記念館  文化賞事務局
電話:0234-31-0028

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